【野生の湯】 ■長野 湯俣噴泉丘 川湯
七倉ダムから歩いて走って2.5時間。あちこちから源泉が湧出する河原に到着する。この一帯は湯俣地獄と呼ばれ、100℃近い熱湯と共に湯煙が盛大に舞い上がる。地獄と化した河原は沢沿いに細長く延び、その圧倒的な光景は訪れる者の心を震わせる。
沢水で温度調整後で、42-43℃。やや熱め適温。体が火照ってきたら、目の前の沢へと飛び込む。これがムチャ快適。温泉と沢の交互入浴を、飽きるぐらい繰り返す。
出来合いの手堀露天にて疲れ切った体を癒した後、地獄の上流へと移動する。河原を遡ること、100m程度。対岸に異様な物体が見えてくる。小高い丘状になっているそれは、天然記念物にも指定されている。高さ3mの真っ白な噴泉丘が湯気に霞む。見た瞬間、頭に血が上り、鼓動が早くなる。
目の前を流れる沢は、流れが早く水量も多い。だが、河原に落ちていた棒切れを手に取り、裸足になって渡川を開始する。体中の全細胞は噴泉丘に近付くことだけを求めている。お尻までズブ濡れになりながら渡りきる。手が触れそうな位置まで最接近。間近から眺める湯俣噴泉丘。高さ3mはありそうだ。自然の驚異的な芸術を前に、ただただ呆然。しばし、みとれる。
噴泉丘の下部から流れ出る大量の湯は、見事な川湯となっていた。大深見張りの川湯と山之城の中間のイメージ。ただし、源泉湧出地点では69℃超。熱くて入湯できない。入湯地点を求め、下流へと移動する。そして、先人がこしらえた堰を発見。39℃と、この季節としては適温。ここに決める。
寝そべりながら極楽入湯。思いっきりノビをする。体から一気に疲れが抜け落ちて行くようだ。
この素晴らしい大自然からの贈り物を一人占めできる幸せに感謝する。ここで食べたオニギリの味は、晴れ渡った青空と共に、いつまでも心に残ることを確信した。お尻までズブ濡れになりながら、沢を渡ったかいがあるというものだ。
立ち去る前に、再び噴泉丘と向かい合う。やはり美しい。思わず何かを語りかけたい気持ちになる。
少し照れくさかったが、心の中で「また会いに来るよ」と呟いた。それまで元気でいてくれよな。
-2000.08.13-