マル得温泉旅行

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【野生の湯】秋田 皆瀬村 赤湯又沢 [東北野湯]

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【野生の湯】 ■秋田 皆瀬村 赤湯又沢 →[東北野湯]

 大湯温泉の南から延びる林道の入口に着いたのは、夜9時を回っていた。翌日の準備をようやく済ませた時は、10時近くになっていた。月が明るく、そして、異様に大きく見える夜だった。明日の天気が約束されたような幸せな気分の中、眠りにつく。

 翌朝4時30分起床。軽く食事をとり、荷物の最終チェックを行う。今日は一日中沢歩きをした後、河原で野宿することになる。忘れ物をして、酷い目に会いたくないので、慎重にザックの中身を確認する。待ち合わせ時間は、5時だが、M氏の姿が見えない。ゲートが開いているので、きっと奥まで入ったのだろうと見当をつけ、4時55分、車で林道に乗り入れる。
 しばらく走ると、向こう側から、バイクが近づいてくるのが見えた。すれ違いざま、相手を確認する。M氏だった。話を聞くと、前日は、この先にテントを張ったとのこと。取りあえず、行けるところまで、車で進む。やがて、二番目のゲートにぶつかった。その手前に駐車する。

 ここから林道歩きが始まる。予想以上に奥まで車で入れたので、かなり時間が短縮された。天気も悪くないし、実に幸先が良い。しばらくは右手に皆瀬川を見下ろしながら進む。とても気持ちがよい。しだいに道幅が狭くなる。いつの間にか登山道になっていた。
 歩き始めてしばらくすると目の前に吊り橋が見えてきた。ところが、対岸まで一直線に橋が延びていない。何だろうと思いつつ進む。吊り橋を渡りきると、そこには、真下に向かい垂直に落ちるハシゴがあった。どうやら、ハシゴを使って、いったん河原に下りなければならないらしい。目も眩むような高さとまではいかないが、かなりの高低差がある。20m程度というところか。一歩一歩慎重に下りていく。ハシゴの造りはしっかりしていたし、風もなかったので、恐怖感は少なかったが、一箇所グラグラする箇所があったのには肝を冷やした。

 河原に降り立った後、再び少し上がる。今度は皆瀬川を左手に見下ろす形での山歩きは続く。道は次第に川から遠ざかり、森の中へと入る。途中、バイクが2台置かれていた。廃バイクのようだが、昔、先程の吊り橋が対岸まで続いていた頃の残骸であろう。と思いつつも、かなり幅太のワダチが(しかも最近つけられたものらしい)道の上に残っているのを見るにつけ、もしかしたら、このバイクは現役で走っているのかな、と考えたりもする。そのことをM氏に言うと、「MTBなら、これくらいの幅のワダチだと思います」とのこと。それでも構わないが、それにしてもあの吊り橋のハシゴを、MTBを担いで上り下りしたくはないよなと考える。

 ▼春川出合。橋桁の残骸が突っ立っている。
温泉画像

 何本目かの支流の沢を越える時、前方に動く物体を発見する。「あっ、カモシカ」と思わず声を上げる。実物を見たのは初めてだった。それにしても逃げ足が早い。
 しばらく踏み跡を辿った後、一気に河原に降り立つ。目の前には、幅の広い沢が流れていた。左手には、橋桁の残骸が突っ立っている。道は沢の対岸へと延びている。
 「春川出合に着きましたね」というM氏の一言で、現在位置に気付く。目の前を流れているのが、目指すべき虎毛沢だ。橋桁の向こう側に春川が見える。ここからは、いよいよ沢登りが始まる。
 小休憩をした後、道を外れ、ジャバジャバと沢を遡り始める。

 渇水期なのだろう。水量は少なく、流れも緩やかで、浅い。平和な遡行が始まった。河原歩きと、沢歩きを、交互に繰り返しながら、順調に進む。魚影は全くないが、その代わり、あちこちでキノコを見かける。「美味しそうですね」とM氏に話しかけるが、「無用なリスクは負いたくないです」との冷たい言葉が返ってくる。全面的に正しい。温泉仲間のK氏やA氏に、お土産として持って帰ったら喜ぶかな、と一瞬考えるが、それって嫌がらせだよな、思わず一人笑いしてしまう。

 支流の沢と出会うたびに現在位置を確認し、先を急ぐ。途中、やっかいな箇所が数カ所あるが、ほとんど問題なく越えていく。すこぶる順調。疲労を感じることなく、快適な沢歩きが続く。ちなみに、私とM氏は、ある程度の経験はあるとは言え、沢歩きについては素人同然。沢が増水していたら、おそろしく苦労していたに違いない。
 猿子倉沢出合を越え、そろそろ赤湯又沢出合だよなと思い始めた頃、目の前に、けっこう深そうなゴルジュ(淵)が現れた。両岸には、安全に高巻きできるようなルートは見当たらない。それでもM氏は左岸(向かって右側)から高巻きして越えようと頑張り始めた。確かに高巻きできなくはないだろうが、ザイルで確保しないとマズいと思った。だが、そんなもの持ってきていない。
 覚悟を決めた後、ズボリと水の中に入る。

 まずは、空身で渡ってみる。場所によっては、胸近くまで浸かるが、流れは緩やかなので危険はない。それよりも、水が冷たいのが、身にしみる。次は荷物の番だ。防水仕様ではないので、頭の上に載せて、慎重に進む。無事渡り終え、M氏の方を見ると、呆然と私のことを見つめている。泳ぐことなど、全く考えていなかったようだ。
 だが、私が無事渡りきったことで、踏ん切りがついたらしい。高巻きすることを諦め、泳いで渡る準備を始めた。M氏の荷物は、私よりかなり重いが、なんとか濡らすことなく無事渡りきる。
 ところで、この時、私の時計が水没し、即死した。(合掌)。以降、時計なしで野湯巡りをすることになったが、どう言う訳か、さほど不自由な思いをすることはなかった。

 10月の東北。やはり水温は低い。ひたすら寒い。ブルブル震える。しばし休憩。全裸になって、濡れたシャツとパンツを絞る。こんなことだったら、最初から裸で水中に入れば良かったと思ったのは、旅を終えてからのこと。結局、帰りも同じ箇所で、同じことを繰り返した。ハッキリ言って、頭悪い。
 胸まで水に浸かることは、肉体的にもだが、精神的な疲労の方が大きい。ヨロヨロと再び歩き始める。ここから赤湯又沢出合までは、わずかだった。やがて、出合にかかるダイナミックな滝が、目の前に姿を現す。

 左岸(向かって右側)を巻くと、そこには筋金入りの沢屋さんという風体の人がいた。話を聞くと、前日、赤湯又沢の露天風呂を整備した上で心ゆくまで堪能したとのこと。ここからは、一時間ちょっとだし、しかもとりたてて難しい箇所もないとのアドバイスをいただく。
 いよいよ赤湯又沢の歩きだ。既にシャツは乾き、いつの間にか寒さもおさまっていた。歩きながら、考えることは温泉のことばかり。「温泉、温泉、温泉」と、無気味に呟きながら進む。
 だが、かなり疲れていたのであろう。赤湯又沢出合からしばらく進んだところで、岩から滑り落ちてしまった。背中から落ちたが、幸いにも下が岩場だったので、荷物の水没は免れた。M氏曰く、「水面までもう少しでした」とのこと。シェラフがズブ濡れ寸前だったことを思い、冷や汗をかく。
 M氏も、かなり危なかった。沢の中を歩いている時、つまづき、転びそうになる。三四歩よろめいたが、倒れる寸前で踏ん張り、荷物を死守する。

 ▼赤湯又沢の露天。ここに通算して4時間以上も入湯する(^^;
温泉画像

 お互い口数が少なくなった頃、ようやく硫黄臭を感知し始めた。所々で、少量ながら湯の湧出があり、アオコの群生が見られる。どうやら源泉地帯は間近に迫っているらしい。現金なもので、気力体力共に一気に回復する。やがて、右岸(向かって左側)に噴気が見え始めた。視界も徐々に開ける。小規模な地獄になっているようだ。
 近寄ってみると、あちこちで熱湯が湧出していた。ただし、湯量はさほど多くなく、露天も見当たらない。手堀する気が全くなかったので、先を急ぐ。

 と、そのすぐ上の噴気のない左岸(向かって右側)を探索していたM氏から歓声が上がる。露天風呂発見の瞬間である。(ピースv)
 そこには、薄っすらと青白濁した露天があった。色彩は神秘的で、香り高き硫黄臭と相まって、高貴な雰囲気を漂わせる。すぐにでも入湯したかったが、M氏の「写真を撮るから少し待って下さい」という声に遮られる。全く、これだからマニアックな温泉好きは、困るんだよな。って、あまり他人のことを言えないんだけどさ(笑)。

 ゆっくりと温泉に身を沈める。柔らかな湯が、体にまとわりつく。絶妙な、ぬる湯適温。深さも十分だ。素晴らしい。疲れが抜けていく。ブナ林に包まれたこの空間で、このまま何時間でも浸かりたいところだが、そう言う訳にもいかない。
 そもそもは、この上流で湧いているという温泉の探索が、今回の主目的。これからが、温泉探索の本番なのだ。

-2001.10.07-  

→■赤湯又沢右俣右沢へ続く

【コースタイム】
 大湯の林道入口535-春川出合640-坪毛沢出合735-赤湯又沢出合850-赤湯又沢野湯1010

東北野湯
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