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【野生の旅】富山長野北アルプス野湯探索3 [北アルプスの湯]

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【野生の旅】 ■富山長野 北アルプス野湯探索3 →[北アルプスの湯]

→■北アルプス野湯探索2より続く

= 9月22日:三日目 =

 ▼長野 硫黄乗越付近
温泉画像

 窓の外はまだ暗い。夜明けまでしばらくかかりそうだ。耳を澄ますが、昨夜までの雨音は聞こえてこない。4時30分。身支度を始める。1Fに降りると、受付のところに前夜注文していた弁当が置いてあった。食堂の方に目をやると、その先で何人かが動いている気配がする。山小屋の朝は早い。とは言え、前日までの雨のせいか私の他に、宿を早立ちする人は見当たらず、建物は静まり返っている。夜明けまで1時間ある。
 4時45分、同室で寝ていたK氏に別れの挨拶をした後に双六小屋を出発する。雨は降っていないが防寒対策として雨具を着用し、この旅で初めてクマよけの鈴をザックにつける。この2つの装備は、私にとっての命綱だ。外は暗い。雲が月を覆っている。足元をライトで照らしながら槍ヶ岳方面を目指す。
 「晴れますように」。奇跡を祈りながら、慎重に登山道を進む。

 双六小屋から、まずは樅沢岳を目指す。標高差は200mあるが、さほどきつくはない。登山道は整備されているし風も強くない。ほどなく山頂に到達する。標高2754m。おそらく今回の山旅における最高所だ。5時13分。夜明け前だが辺りは薄っすらと明るくなってきた。見上げると雲が流れていくのが分かる。一瞬、月を見ることができた。すぐに雲に隠れたが幸先がよい。やや風が強くなった稜線を勢いよく歩く。
 次第に夜が明けていく。物凄い勢いで雲が移動している。前方には槍ヶ岳が見えるようになった。山並みを覆うガスが少なくなるにつれ視界が開けていく。荘厳な光景だ。ダイナミックな自然の営みに圧倒される。

 ▼長野 硫黄沢を目指し下降する
温泉画像

 硫黄乗越付近には5時40分前に到着した。今のところ、ほぼ予定通りだ。「ヤリへ4.8k」と書かれた石があった。さて、ここからが旅の本番。この先は登山道を外れることになる。ガスが抜けつつあるとは言え、すぐ先は急勾配の斜面だ。先がほとんど見えない。周囲はガレガレの荒地。地図とにらめっこしながら、硫黄沢への下降地点を探る。沢筋を間違えるととんでもないことになるから真剣だ。

 5時48分、覚悟を決めて硫黄沢への下降を開始する。慎重に進むが、すぐに転ぶ。あまりにも何度も転ぶので、やむをえなく転ぶことを前提に進むことにする。ズルズルと急斜面を滑るように降りていくのでスピードが出る。ラッキー。
 周囲が明るくなってきた。太陽を久しぶりに見た。猛烈に嬉しい。体の奥から力が湧き上がってくる。やはり人間が生きていく上で、日光は欠かせないものなのだと再認識する。
 やがてガラガラの荒地から藪へと変わる。と言っても、丈が低いので歩きにくくはない。そのうち藪が切れ、涸れ沢に出会う。相変わらず傾斜は急だが、ここまで来ればもう大丈夫だろう。まだクマと火山性ガスの恐怖が残っているが、取り合えず深く考えないことにする。クマよけの鈴は元気よく鳴り響いているし、鼻も詰まっていない。
 水の音が聞こえてきた。左手から入り込む沢に合流する。かなり先の左岸に大きく崩れた壁面が見える。第一の目的地までもう少しだ。

 ▼長野 白い滝
温泉画像

 開けた荒地が見えてきた。植生が見られない。火山性ガスの臭いも感知しはじめる。硫黄沢の岐れに到着したようだ。時計を見ると7時ジャスト。予定より15分ほど遅れているが上出来だろう。早速、天然の芸術品と呼ばれる通称「白い滝」を探すことにする。

 硫黄沢で最初に出会った温泉は23℃の冷泉だった。激しく苦く、湯量が豊富、白濁しているのが美しい。とても特徴的な温泉だ。だが、濃厚な火山性ガスが漂っているので長居できない。沢水で湿らせたサラシで口元を押さえながら、その場を離れると、すぐ先に「白い滝」があった。
 藪を切り開くように、純白の堆積物が崖上へとのびている。まさに白い滝だ。しかも前日までの雨のためか、「白い滝」の上を滝のごとく水が滑り落ちていく。実に美しい。
 おそらくここまで立派なものになるまで、気の遠くなるような時間がかかったことだろう。崖上にある源泉湧出口から成分を多量に含んだ冷鉱泉が絶え間なく流れ落ち、この驚異的な造形物を作り上げたのだ。

 7時20分。「白い滝」を見物した後、食事にする。身の回りでは火山性ガスがプシュプシュと噴いているが、栄養補給をしなければ倒れてしまう。とは言え、このシチュエーションではさすがに食欲が湧かず、半分ほど残して野湯探索を続けることにする。
 7時36分。またもや素晴らしい冷泉に出会うが、早く暖かい湯に浸かりたいので写真を撮るだけで先を急ぐ。目の前では沢沿いに噴煙が上がっている。はやる気持ちを抑えながら近づいていく。

 ▼長野 硫黄沢の川湯
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 噴煙が上がる崖下からは大量の湯が湧出し、見事な川湯と化していた。温度計を差し入れる。46℃。入れないことはないがさすがに熱すぎる。ザックを岩の上に下ろし入湯道具と水筒だけを持って、適温の箇所を探すために下流へと移動する。
 10m以上下っても、まだ熱い。そのうち、左手を流れる沢からほどよく冷水が流れ込む箇所に辿り着く。深さも適度にあるし、気持ちよく長湯できそうな温度だ。服を脱ぎ捨て、川湯に飛び込む。新鮮な湯が激しい勢いで体に絡みつく。豊富な湯の流れに、ただひたすら身をゆだねる。まるでジェットコースターに乗っているようだ。ザワザワと痺れるような感覚を楽しみながら、至福の時間を味わう。
 雲は一つも見当たらない。透き通るくらい空は青い。周囲には誰もいない。動物の息吹さえ感じられない。北アルプスの奥地で、自分だけの世界が広がっている。この良き日に、この素晴らしい場所で、この素敵な川湯を独占する幸運さに感謝する。

 川湯を堪能した後、さらに硫黄沢を下降する。右岸の至るところからは、ひっきりなしに源泉の湧出が確認できる。それらを小まめにチェックしながら先へと進む。ひときわ激しく上がる噴煙地点では、崖上から湯が流れ落ちていた。人肌ぐらいに温くなっていたが、思わず服を脱いで浴びてしまう。打たせ湯を楽しむ。口に含むと歯がギシギシする。この感覚は久しぶりだ。

 打たせ湯からしばらく沢を下ると、左手から沢が合流してきた。もしかして湯俣川との出会いなのか。まだ10時になっていない。ちょっと早すぎるような気がしたが、地図を確認するとどうやらそのようだ。硫黄沢左岸から湯俣川左岸への渡渉を開始する。思ったよりも楽に渡ることができた。

 ▼長野 硫黄東沢出合の湯
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 少し下った後、湯俣川を左岸から右岸へと渡渉する。次の目的地の硫黄東沢はすぐ近くだ。10時16分、硫黄東沢出合の湯に到着した。地図で確認すると標高は約1770m。樅沢岳から5時間かけて標高差1000mを下った計算になる。

 そこには立派な露天があった。作成してくれた先人の方には感謝するばかりだ。少し温かったので流れ込む湯量を調整しながら灰濁した泥湯に浸かる。いかにも成分が濃そうな湯だ。露天は広く、そして深い。徐々に温度が上昇し、適温となる。底に堆積する泥状の硫黄を顔に塗りたくる。山歩きで日焼けしたからには、泥パックぐらいしないとね。

 温泉で鋭気を養い、水と栄養の補給する。11時5分、必要最小限の装備を身につけ、硫黄東沢出合の湯を出発する。次に目指すは硫黄東沢の支流で湧出しているという温泉だ。硫黄東沢に降り立つとチョロチョロ流れる黒湯があったが先を急ぐ。
 硫黄東沢を遡るとすぐ滝に出会う。直登できる雰囲気ではないし、左岸から巻くのも無理そうだ。右岸から巻くという事前情報を入手していたが、それもちょっと辛そうな感じだ。と言っても、他に選択肢はないので、滝の少し手前の崖をよじ登り始める。岩の裂け目や割れ目を慎重に探りながら10m程度のフリークライミングだが、思ったよりも楽に通過できた。

 11時19分、硫黄東沢岐れに到着。この先、本流の方は荒れていそうだが、お目当ての左俣は穏やかな様相なので安心する。ほどなく噴煙と共に異様な光景が目に飛び込んできた。硫黄東沢岐れから10分も経過していない。

 ▼長野 硫黄東沢ドームの湯
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 「これは何だ?」。左岸の崖上からは噴煙が上がり温泉が流れ落ちているのだが、それだけではない。流れる温泉の成分が、崖沿いに真っ白い巨大なドームを作り上げていた。しかも、純白のドームには黒湯のコーティングが施されている。あまりにも強烈な光景を目の前にして激しい衝撃を受けた。
 「白い滝」の時は美しいと感じたが、これは何とも表現しがたい。あまりにも白と黒のコントラストが鮮やか過ぎて、不気味と切り捨てることさえできない。私にとっては価値観を変えてしまう温泉であった。
 近づいて温度を測ると46℃あるが、温泉の落ち口を石で囲い、水を少し引き入れると適温になった。お湯自体は(たぶん)透明なのだが、なぜか黒湯だ。しかもその黒さは半端じゃない。こんな温泉に入るなんてどうかしてるよな、と思いつつも躊躇なく入湯する。硫黄沢温泉群の中では珍しくアルカリ性(もしかしたら強アルカリ性)の湯だ。お肌がツルツルする。あー、幸せ。
 真っ黒になったので目の前を流れる沢で体を洗う。さすがに冷たい。日差しが強いから冷たい沢に入っても大丈夫だが、何か間違っているような気がする。疑問を抱えながらも、黒い温泉成分を必死になって落とす。

 12時、硫黄東沢ドームを出発するが、そろそろ今夜の泊場を決めなければならない。硫黄東沢の本流を探索するならば、必然的に硫黄東沢出合の湯が泊場となる。テントやツェルトを持っていないが、ビバークする準備はある。食料も十分にあるし、水も前日までの雨のおかげで苦労することなく確保することができる。やや落石の心配はあるが、硫黄東沢出合の湯は快適な泊場と思える。
 いろいろ考えてみたが、硫黄東沢本流の探索は諦めることにした。前日までの悪天候を考えると、これ以上のことを望むのは贅沢すぎる。何となくここら辺が切り上げ時だと感じた。そうと決まれば、硫黄東沢を下るだけだ。

 ▼長野 湯俣川1(旧伊藤新道)
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 12時20分、硫黄東沢の滝を右岸から巻いて下りる。上りよりも下りの方が怖かった。硫黄東沢出合に戻ると、すぐに沢で冷えた体を温泉で暖める。13時まで硫黄東沢出合の湯にて気力を充実させる。

 さて行きましょうか。幸いにもまだ日は高い。ザックを担ぎ、一歩踏み出す。硫黄沢・硫黄東沢とは、ここでお別れだ。それにしても雲一つない青空の下、多くの野湯を楽しむことができるなんて昨日まで全く想像できなかったことだ。幸運に感謝しながら、5km先の湯俣噴泉丘を目指し、湯俣川を下り始める。

 13時10分に赤沢出合、14時6分にワリモ沢出合、14時42分に唐谷出合。木の枝を片手に、何度か渡渉を繰り返しながらも、順調に湯俣川を下っていく。気力体力共に充実しているせいか、渓谷沿いの風景がとても素晴らしく感じられる。防水デジカメで気ままに撮影する。快晴の中、快適な沢下りを満喫する。
 湯俣川左岸に無数の硫黄冷泉があった。湧出量が多いものもあったが、残念ながら暖かいものを見つけることはできなかった。

 唐谷を越えてすぐ、左岸から右岸へ渡渉する必要に迫られた。だが、適当な渡渉箇所は見当らない。そのまま左岸沿いの壁をつたいながら強引に下ろうとしたが、思ったよりも流れが早く、しかもその先は深くなっていた。既に太股まで濡れているので、状況は危険域に近づきつつある。完全防水ザックなので全身ズブ濡れになってもいいのだが、水温は低いし、何より直感的にマズいと思ったので、フルパワーを出して川底に岩が見えている箇所まで戻り、一気に渡渉にかかる。
 水の勢いが強いので少しでも力を緩めたら流されそうだ。コース取りをする余裕もなく、無我夢中で湯俣川を下流に向って斜めに渡渉する。最後の一歩が浅瀬に到達した瞬間、今まで止めていた息を吐き出し、一気に脱力する。取り合えず水を飲む。激しく疲れた。

 ▼長野 湯俣川2(旧伊藤新道)
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 その後、一箇所だけ苦労する渡渉ポイントがあったが、さきほどの渡渉に比べれば楽勝の部類に入る。お尻まで水に浸かったが、水の流れはさほど早くなかった。

 やがて前方に湯煙が見え始めた。どうやら湯俣温泉が近づいてきたらしい。左岸で温泉が湧いているが、右岸を歩いていたし、あまり興味が持てなかったので通り過ぎる。おそらくこれが湯俣第二噴泉丘の奥にあるという泉源なのだろう。
 少しすると、左岸に湯俣第二噴泉丘が見えてきた。今度は迷うことなく、右岸から左岸へと渡渉して近づいていく。素晴らしい造形物だ。湯量は少ないのが、残念と言えば残念だがあまり気にならない。何せ、このすぐさきには、湯俣噴泉丘があるのだから。目的地まであと少しだ。

 16時24分、湯俣噴泉丘に到着。硫黄東沢出合からの川下りは、3時間30分でひとまず終わりという訳だ。ここまで来れば、よほどのことがない限り、無事に下山できる。3日間で北アルプス ― 富山県の折立から長野県の湯俣温泉まで ― を横断したという訳だ。(万歳三唱)
 3年前と同様に、噴泉丘から流れる出る温泉は川湯になっている。噴泉丘も少し成長したような気がする。適温箇所を探し、すぐさま飛び込む。川下りで冷え切った体は、あっという間に暖まる。アルコール度数96度のスピリタスをなめるように飲みながら、飽きもせずに噴泉丘を眺める。こんなに幸せでいいのだろうか。

 ▼長野 湯俣噴泉丘の湯
温泉画像

 近くの晴嵐荘で宿泊するつもりだったが、酔いが回るにつれて動くのが面倒くさくなってきた。「なるようにしかならないさ」と開き直り、このまま湯俣噴泉丘の川湯で日没を迎える。結局、温泉の脇で野宿の準備を始めたのは、20時を過ぎていた。どうやら4時間近く温泉に入り続けていたらしい。体はふやけるし、何だか調子が悪い。自業自得。

 この夜は1〜2時間ごとに、寝ることと温泉に入ることを繰り返した。寒さで目が醒めるので、その度に温泉で暖まらなければならない。もっと着込めば寒さを感じることなくグッスリと眠れるのだが、何せドロドロに疲れている上に、泥酔していて、判断能力及び行動力が著しく低下している。旅の山場は越えたという安心感から、緊張の糸がプツリと切れたのかもしれない。
 とにかく朝が来るのが待ち遠しかった。(※湯俣噴泉丘では翌朝にかけて合計8時間以上も入湯したみたいです)

= 9月23日:四日目 =

 旅の最終日は、6時30分に湯俣噴泉丘を出発し、七倉山荘まで4時間近く歩いた。その後、七倉源泉を探索してからタクシーで大町温泉郷を目指した。一風呂浴びてからバスで信濃大町へと移動し、駅前の食堂で昼食をとった後に、13時17分発の特急あずさに乗り込む。どうやら自宅には18時前に戻れそうだ。電車の中では、スピリタスを飲み、旅の余韻に浸りながら、うつらうつらし続けた。

 旅はまだ終わらない。

-2003.09.22-  


【コースタイム】

◆9月22日:三日目
[歩9h00].双六小屋445-513樅沢岳-539硫黄乗越付近548-706硫黄沢岐れの冷泉 -716白い滝-741硫黄沢の湯A(川湯)805-814硫黄沢の湯B-856硫黄沢の湯C -915硫黄沢の湯D(打たせ)927-958湯俣川出合-1016硫黄東沢出合の湯1105 -1119硫黄東沢岐れ-1127硫黄東沢ドーム1201-1225硫黄東沢出合の湯1305 -1310赤沢出合-1406ワリモ沢出合-1442唐谷出合-1500名無し沢(右岸)出合 -1537一ノ沢出合-1608湯俣奥の湯-1616湯俣第二噴泉丘-1624湯俣噴泉丘(泊)

◆9月23日:四日目
[歩4h00].湯俣噴泉丘630-1000七倉1013-1032七倉源泉-七倉山荘-(タクシー) -大町市民浴場1240-(バス)-1300信濃大町1317-(JR)-1636新宿-東京-有楽町(帰着)

北アルプスの湯

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