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【野生の旅】富山立山黒部を歩く1 [立山黒部の湯]

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【野生の旅】 ■富山 立山黒部を歩く1 →[立山黒部の湯]

= 9月22日:一日目 =

 眼を覚ますと立山有料道路の料金所だった。目的地までもうすぐだ。夜行バスの乗客の大半はまだ寝ているらしい。なるべく音を立てないように朝食のオニギリを食べ始めた。窓の外では雨がしとしと降っている。

 朝食を終え、しばらくした後、弥陀ヶ原に到着した。ここで降りたのは私一人。他の登山客は室堂まで行くらしい。沢登りの準備を手早く整え、松尾峠へと歩いていく。
 本日、最初の目的地は立山温泉、そして立山新湯。以前から再訪することを、強く望んでいた温泉だ。

 ▼富山 松尾峠から立山カルデラの眺め
温泉画像

 湿原を木道に沿って進むと、やがて松尾峠の展望台へと辿り着く。雨だけでなくガスも出ているので視界は悪い。だが、立山カルデラの様子は確認できた。カルデラ内に深く切れ込む何本かの谷が見える。コンパスと地図で位置を慎重に確認し、峠を下るルートを探っていく。

 藪の中にザックをデポした後、身軽な格好で松尾峠の下りにかかる。踏み跡さえあるかないか分からないルートなのだが、どういう訳か全く不安を感じない。どうやら久しぶりの大掛かりな旅行なので、テンションが上がっているらしい。

 立山温泉が宿として営業していた頃、松尾峠には登山道が存在した。人の往来は結構あったようだ。だが、土砂崩れにより立山温泉が廃業してからは、登山道を使う者は減り、やがて廃道となった。
 今から下っていくのはこの廃道なのだ。

【注】2017年8月23日現在、松尾峠の登山道は復活しています!

 事前に仕入れていた情報を頼りに、降り口を探す。藪漕ぎで少し手間取ったが無事発見。方向を再確認した後、覚悟を決めて本格的な下降にとりかかる。
 ここから先の情報は皆無に等しいが、小雨が降りしきる中、今にも消えてしまいそうな踏み跡を進んでいく。

 ▼富山 歩きやすい沢を下っていく
温泉画像

 とあるポイントにて、「ここら辺でいいだろう」と深く考えることなく、踏み跡を外れ、急な崖を無理やり下り始めた。幸いなことに、下ってすぐのところで、右手へ向かう枯れ沢に出会った。
 「今日は勘が冴えているのかも」と考えながら、そのまま枯れ沢を下り始めた。そのうち小さな水の流れが発生し、次第に水量が増えていく。やがて視界が開けてきて、ついには谷へと変化した。かなり明るい谷で、あまり荒れておらず、沢歩きするには快適な環境と言っていいだろう。
 時折ガスの切れ間からチラチラと立山カルデラが見える。あとどれくらいで温泉に入れるのだろうか。

 しかし、予定時間になっても一向に立山温泉へ到着する気配が感じられない。何だかおかしいな、と思いつつもさらに進むと、遭遇するはずのない大滝にぶつかった。ここにきてようやく地図をじっくり眺めたのだが時既に遅し。どうやら沢筋を間違え、水谷を下降していたことが判明したのだ。
 とすると、目の前にあるのは水谷大滝なのか?(最悪)

 ▼富山 大きな滝を見下ろす
温泉画像

 ざっと見渡したところ、どうやら右岸を巻けば降りることができそうだ。ルート選択をミスしたが、立山カルデラまで、もう少しということは確かだ。カルデラに入ってしまえば、温泉までさほどの苦労はない。時間もある程度は余裕がある。
 即時に滝を下ることを決意した。

 大滝の右岸を大きく巻いて下り始める。傾斜面にへばりつくように茂っている藪や木を利用しながら慎重に進む。雨でぬかるんでることもあり、足場は極端に悪く、何度か滑る。その度に近くにある植物の根っこなどをつかみ、転落を防いでいたが、一度だけつかみ損ねてしまい思いっきり滑り落ちてしまった。
 「マズい」と思った直後、幸いなことに、滑り落ちる体が木に引っ掛かってくれた。左膝を強打したが、落ちたのは5mぐらいだったこともあり、さほどの痛みは感じない。滝下まで落ちていたら、もしかしたら歩くことが困難な状況に陥っていたかもしれない。思わず「助かった」と口に出していた。

 その後はより一層慎重に崖を下った。滝下に着いた時は安堵のため息が漏れた。滝を見上げると30mはありそうだ。正直なところ、あまり上り返すことは考えたくない。
 だが、その滝のすぐ下には、またもや滝があった。今度の滝も大きいようだが、ちょうどこのとき周囲一帯にガスがかかり、全く見通しがきかなかったので判断できない。頭の中で危険信号が点灯している。
 「無理をするところではない」と判断し、とても悔しかったが、登り返すことにした。

 ▼富山 大きな滝を見上げる。半泣きしながら登り返した…
温泉画像

 上り返しは辛かった。「温泉」という目標がなくなりモチベーションが下がった上、天候はさらに悪化し雨は本降りとなった。途中、ルートを見失い、急斜面での藪漕ぎを強いられ、降り続く雨は体温を奪っていく。
 それでも全身ずぶ濡れになりながら、何とか松尾峠の展望台に戻ることができた。一刻も早く着替えたい。休む間も惜しく、弥陀ヶ原のバス停を目指し、木道を急ぐ。

 今日の宿はみくりが池温泉だ。立山新湯に入れなかったのは残念だが、素晴らしい温泉が待っていることを考えると嬉しくなってくる。

 こうして北アルプスを横断する山旅が始まった。

-2004.09.22-  

→■立山黒部を歩く2へ続く


【コースタイム】

◆9月22日:一日目
[歩7h00].-(夜行バス)-弥陀ヶ原0650-0720松尾峠-0916大きな滝0923-1254松尾峠-1320弥陀ヶ原-1418立山玉殿の湧水-1540立山地獄谷-みくりが池温泉(泊)

立山黒部の湯

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