【野生の湯】 ■鹿児島 硫黄島 穴之浜海中温泉
雨のち晴れ。朝6時に起床。窓の外を見ると雨。しかも土砂降り(うう)。 もちろん風も強いんで傘などは使えない。合羽を羽織り出発。 自販機でビールを購入後、30分かけて東温泉へ。 海岸沿いは激烈な風。当然こんな時は他に誰もいない。 だがここぐらい、荒天・満潮が似合う温泉はない。 波は荒々しく雲は恐ろし気。ビール片手に地獄模様での入湯。 はっきり言って物凄く満足(うっとり)<単なる変態かも(^^;
東温泉から宿に戻り、朝食をとった後、穴之浜チャレンジ準備。 このために私は硫黄島を訪れたのだ。 荒天だが迷いは全くない。 地下足袋を履き、雨の中、伝説の穴之浜へと出発する。
東温泉のさらに奥の断崖絶壁の下に、穴の浜という海中温泉があり、幅五十メートル、長さ八百メートルに及ぶさまは、かつて日本最大の温泉として好事家に知られていたが、いまは噴火による落石と崖崩れのため道がふさがれている。
※嵐山光三郎著「決定版快楽温泉201」より引用 \1800 ISBN4-06-338954-5 講談社
http://kodansha.cplaza.ne.jp/arashiyama/p_best8/008/008.html

土砂降りに加えて、風も強いしハッキリ言って最悪。 しかし、頭の中が穴之浜で一杯の私には関係ないこと。 気合いを入れて宿を出る。 #宿の人にお弁当を作ってもらったし行くしかないでしょう(^^;
ブスブスと噴煙を上げる硫黄岳を右手に眺めながらのトレッキング。 晴れていたら気持ちいいだろうなって思っても空しいだけ。 だが、現実は厳しい。合羽の隙間から多量の雨が流れ込む。 出発してから10分も経過しない内に既にズブ濡れ(うう)。 おまけに田植え用の地下足袋にも水がしみ込む。
前日に下調べしておいた道を進んで行く。 次第に森の中へと導かれる私。もちろん人影などは全くない。 #普段から誰も使ってない道なのかも(^^; そして事前情報で聞いていた小さなダムに到着。 この先は廃道ということなので、迷わず沢(?)に降りることに。
だが、雨で地表がぬかるんでいたためかアクシデント発生。 ダム脇の崖を降りてる途中、足場の岩がドサーっと崩れたのだ。 #当然私の体も2m以上落ちた(^^; 幸いにも地面が柔らかく足を挫かずに済んだ。 ホッとすると同時に、帰り(=ダム上り)のことが一瞬だけ頭をよぎる。 #手頃な上りルートが見当たらなかった(^^; しかし、既に浜へ辿り着くことしか考えられない私。 後先考えずに、水気のない沢を駆けるように下りて行く。
▼平家城からの光景。探索前日は天気が良かったんだけどな...
10分後。穴之浜手前の海岸に到着。 海面は荒々しいが、鮮やかなエメラルドグリーンに染まっている。 前日、平家城から眺めていた光景が目の前にあるのだ(感激)。 #意味もなく「ウオー!」と吠えた私(^^;
周囲の空気は生暖かく、海水も少し熱を帯びている。 浜は完全な岩場。巨大な岩がゴロゴロ落ちている。 断崖絶壁のはるか上方には硫黄岳の噴煙が見える。 干潮まで3時間ほどあったが、岩場を穴之浜目指し進んで行く。
雨脚は相変わらず激しく、波は高い。 加えて間近にそびえ立つ断崖があまりにも恐ろしい。 冗談抜きで、いつ崩れ落ちてもおかしくないのだ。 驚異的な自然の造形に震え上がる。 #でも穴之浜を目指すことはやめない(^^;
岬が近付いてくる。この先が穴之浜。 歩きにくい岩場&雨により体力を奪われてるはずだが全く疲れを感じない。 時々、海水に手をあてて温度を確かめるが、温泉というほどではない。 そして、穴之浜に。
▼穴之浜へ。だが、あいにくの天候で体はズブ濡れ...
目の前にはイメージしていたものとは異なるものがあった。 波打ち際は一面の砂利。砂浜は少し陸に入ったところにしかない。
巨大な雲が物凄い早さで流れて行く。鉄臭を含む波は高い。 雨に濡れた体は冷えきっているが、やはり海はぬるすぎる。 色や臭いから、すぐ近くの海底で湯が湧いているのは確かなのだが。 そして、干潮まで我慢しきれず、私は海へ入る。 が、・・・寒い(ブルル)<状況悪化
すぐに上がるが震えは止まらない。ガチガチと歯が軋む。 雨に濡れたシャツを着るが状況に変化なし。 一気に気力が奪われ、身の危険を感じる。 周囲を見渡すが、雨宿りできそうな場所はない。
取り合えず必死になって手頃な岩陰まで移動する。 既に体の自由が効かなくなっているほどに体力低下。 着替えの服はすぐにズブ濡れになりそうだったので、 裸になった上で、アルミ製のレスキューシートを羽織る。 #まさか使うことになるとは思ってなかった(^^;
身を小さくして考えるのは、天候のことばかり。 雨は時々小降りになるが、一向に良くなる兆しは見られない。 荒れ狂う波間と、流れる雲を、呆然と見つめる。 自分のちっぽけさを、実感した。
どれくらい時間が経過したのだろうか。 前触れもなく、ポッカリと雲が割れた。 陽の光りが、地表に差し込んでくる。 それまでの荒々しい情景が一瞬の内に身を潜めた。 辺り一面に溢れる、優しい光。 冷えきった私の身も心も、暖めてくれる。 ここに来て、良かった、と、思う。(感謝)

干潮まで2時間ほどあったが、場を去ることにする。 風は相変わらず強く、いつ天候が急変するか分からない。 何よりも体力が持つかが不安だった。 名残惜しい気持ちはあったが、やはり生命の方が大事だ。 #頭もボーっとしていたし(^^;
と思いつつ、帰り際、またもや海へ突入(^^; やはり、ぬるすぎる(ううう)。 自分のアホさ加減を悔やみつつ、穴之浜を後にする。
岩場を通り抜け、来た道を戻って行く。 右手に美しく染まった海を見ながら。 #左手の崖に怯えながら(^^; 沢の入口に着く。海とはここでお別れだ。
最後にもう一度だけ、海面に手を付けた。
-2000.03.19-