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【野生の旅】北海道野湯探索2 [北海道野湯探索]

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【野生の旅】 ■北海道 野湯探索2 →[北海道野湯探索]

→■北海道野湯探索1より続く

= 6月10日:三日目 =

 目覚めると身体の節々が痛い。狭い車内で寝たせいもあろうが、前日ハードな沢登りをしたためだ。東大雪を流れるワッカタリベツ川の支流は、水量が多くなかったので危険性が少なかった反面、傾斜が急で滝を何度も越えなければならなかった。すなわち両足はもちろん、腕や腹筋・背筋など全身の筋肉を酷使する必要があったのだ。起きたのが夜明け前の3時ということもあり、しばらくボーっと過ごす。
 意識がしっかりしてきたので車を走らせる。アメをなめながら国道241号線を東へと向い、螺湾小学校の交差点から道道664号線に入ると、ほどなく本日最初の目的地が見えてきた。道が空いていたので予想よりも早く到着。まさに早起きは三文の得ですね。(笑)

 ▼シオワッカ石灰華ドーム(6月10日:三日目)
温泉画像

 道道沿いの公園駐車場に車を置き、野湯グッズを抱えて外に出る。まだ4時過ぎということもあり寒い。(うう)
 シオワッカ公園には石灰華の大きなドームがあった。長い年月をかけて冷泉成分が蓄積したものだ。実にかっこいい。泊川河鹿の湯や津和野の塩井戸を思い出してしまう。残念ながら現在は湧出量が少ないらしいが、素晴らしい天然記念物をじっくりと見物する。

 周辺で冷鉱泉が湧出しているに違いない。しばらくしてから螺湾川の河原に降り立つ。予想通り苦労することなく、近くの橋の下に盛大な垂れ流しを見つける。析出物が物凄く、遠目からでもその異様さは際立っている。崖上からドボドボと流れて落ちており、斜面が析出物で覆われている。成分が濃そうだ。
 崖上に登り、藪を掻き分けながら湧出ポイントを探す。透明な冷泉が勢いよく湧出していた。泉源に近寄り、口に含む。クリアな炭酸、やや塩味で、エグみも少な目。見た目からして重炭酸土類だが、思ったより成分は薄い。冷たいので浴びる気になれないが、一応温度計を入れてみる。10℃しかなかった。
 冷泉で顔を洗った後、公園駐車場へと戻る。

 ▼雌阿寒岳八合目(6月10日:三日目)
温泉画像

 一旦国道241号線に戻り、さらに東へと向う。次なる目的地は雌阿寒岳。シオワッカから登山口まで30分程度しか離れていない。
 天気は良い。山頂付近はガスっていてよく分からないが、おそらく登山に支障をきたすことはないだろう。まだ眠気が取れていないが、支度を整え、心身ともに登山モードに切り替える。

 雌阿寒岳には、野湯の可能性を秘めた二つの火口湖−赤沼と青沼がある。入れるかどうかは別にして、取り合えず見物しに行きたかった。我ながら物好きなものだ。(笑)
 ここは百名山の一つだが、6月の平日と言うこともあってか、この時間から登る人間の姿は見当たらない。田植足袋を履き、気合を入れて登り始める。

 2合目に差し掛かる頃には、Tシャツ1枚になっていた。晴れていたこともあり、身体が暖まるのも早い。整備された登山道を黙々と登り続ける。5合目あたりからオンネトー湖が見え始める。美しい姿に思わず立ち止まって写真を撮る。
 休憩することもなく順調に登っていたが、稜線に出るくらいから様相が変わり始めた。風除けの低木が姿を消しガレ場となり、しだいに風が強くなってきた。8合目あたりからガスがかかるようになり、風もさらにきつくなる。
 それからはあっという間の出来事だった。9合目に差し掛かる頃には猛烈な風となり、気温の低下と相まってガスは結晶となった。慌てて雨具を羽織るが、結晶化したガスは容赦なく身体に突き刺さり、一気に体温を奪っていく。
 麓から予想もつかなかったことだが、山頂付近は吹雪きと化していた。

 前に進むことはおろか、立ち止まっているのも危険な状態だ。油断をすると身体が吹き飛ばされる。少なくとも二本足で立つことはできない。風圧が強すぎる。それでも四つん這いになりながら頂上を目指す。うーん、かなり狂っていますね。(笑)
 硫黄臭(火山性ガス)を右手に感じたので、おそらく火口付近に近づいていたのだろう。だが視界が10mもないので自分がどこにいるのか確認をすることができない。このままでは仮に山頂に辿り着いたところで、野湯探索など不可能だ。
 あまりにも風が強いので休み休み前進しなければならないのだが、風除けの岩がほとんど見当たらない。動いていないと体温が低下する一方だ。手足の動作も鈍くなってきた。さすがに身の危険を感じたので、頂上間近だったが撤退することを決意する。(やや残念)

 ▼雌阿寒岳からオンネトーを見下ろす(6月10日:三日目)
温泉画像

 そうと決めたら、後は行動するのみ。転がるように登山道を下りて行く。既に身体は冷え切っているので、一刻も早く安全地帯に辿り着きたいのが、悪天候ゆえそうもいかない。風除けの岩を見つけるたびに、休憩を繰り返す。
 8合目付近まで戻ってきた頃、岩場で避難している人に出会う。もちろん、そこで休憩する。栄養補給のためにチョコレートを頬張るが効果は薄い。
 あまりにも私が真っ青な顔をしていたためか、その方はテルモスを取り出し暖かい紅茶を勧めてくれた。涙が出そうなくらい嬉しかったが、手がガチガチになっていたのでうまく飲むことができない。やっとのことで飲み干すと、身体の奥から力が湧いてきた。

 その方はしばらくここで待機した後、頂上を目指すということだったが、さすがにそんな気にはならない。身体が冷え切ってしまったので、気力体力共に限界に近づいている。安全な場所で暖まることしか思い浮かばない。
 紅茶の礼を言い、再び下山を開始する。

 やがてガスが抜けだし、風も弱くなり始めた。オンネトー湖も見えるようになった。ここまで来ればもう大丈夫だ。だが相変わらず体温は低下したままなので、ひたすら麓を目指す。途中何度か人とすれ違ったが、その度にさっきまで山頂付近は吹雪だったので無理をしない方がよい旨を伝える。自戒をこめて。

 やっとの思いで麓に到着する。レンタカーへと急ぐ。車に乗り込み、エンジンをつけ暖房を最強にすると同時に、コンロで湯を沸す。着替えを終え、暖かい雑炊を平らげ、ようやく一息つく。残すは温泉だけだ。近くにある野中温泉へと向う。
 2年ぶりに入ったが、相変わらず極上の湯だ。適温の源泉が惜しげもなく湧出する。雌阿寒岳の野湯探索は失敗したが、そんなことはどうでもよくなった。あー、極楽。日本に生まれて本当によかった。(笑)

 それにしても残雪がなかったのが不幸中の幸いだった。この前日におこった十勝岳での遭難事故を後日耳にしたが、他人事とは思えなかった。
 低体温症の恐ろしさを実感した一日だったが、実は翌日さらに酷い思いをすることになる。学習能力がない自分が悲しすぎる・・・。(ハー)

-2002.06.10-  

【参考】
写真旅記:北海道野湯探索2
北海道野湯探索

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