【野生の技】 ◇Tips お読み下さい
8. [調査].火山性ガス 2002.02.11
【概要】
- 火山性ガス(噴気)の大部分は水蒸気H2O(体積比96%)
- 水蒸気以外の4%のうちの90%が二酸化炭素CO2
- 主な有毒ガス:硫化水素H2S,二酸化硫黄SO2,二酸化炭素CO2
- 事故原因は硫化水素H2Sに集中するが二酸化硫黄SO2についても注意が必要
- 有毒ガスは常温では空気よりも比重が重い(「dense gus」という)
- 火山性ガスの噴出口に近いほど一般的に有毒ガスの濃度が高い
- 火山活動が活発化している時は火山性ガスの噴出量が多い
- 症状:呼吸の深さが増す/粘膜に刺激/頭部に圧迫感/頭痛,耳鳴り,めまい,吐き気
- 火山性ガスの温度が低いほど水への溶解度は高くなる(水に溶けやすい)
- 火山性ガスの温度が低いほど密度が濃くなり拡散が活発になる
- 火山性ガス濃度:許容濃度(〜10ppm)→生命危険(10〜700ppm)→即死(700ppm〜)
- 硫化水素H2Sと二酸化硫黄SO2の混合気体は一般的に硫化水素の臭いが優先
- 高温の酸性熱水は硬い石を粘土鉱物に変える
【硫化水素H2S】
- 比重1.19(空気=1)#比較的密度の薄い「dense gus」
- 可燃性気体(爆発性ガス)なので水より酸素に反応しやすい
- 水に対する溶解度が低い
- 低温の火山性ガスに多く含まれる
- 腐卵臭,ドブ川の汚泥臭(ヘドロ臭)
- 高濃度(生命危険)になると臭気は逆に減少する
- 神経系に作用し頭痛,嘔吐,意識障害などを引き起こす
- 症状:腐卵臭→臭気悪化→気道障害→臭気減少→目,鼻,咽粘膜に強い痛み(臨界点)
- 噴気口近くの水溜り(温泉)に過飽和状態で溶解しているのでその表面上に滞留
- 長時間安定して存在
- 岩石を白く変質させる性質がある
- 猛毒なので倒れてからでは手遅れ
- 酸化すると二酸化硫黄SO2
【二酸化硫黄SO2(亜硫酸ガス)】
- 比重2.26(空気=1)#比較的密度の濃い「dense gus」
- 不燃性気体
- 水に対する溶解度が高い
- 高温の火山性ガスに多く含まれる
- ツンとする刺激臭で肺の奥に引っ掛かりを感じる息苦しさ
- 主に粘膜に作用し鼻や喉や眼を痛める
- 症状:鼻,喉,眼の刺激→呼吸困難(臨界点)
- 空気よりかなり重いので谷沿いや窪地に滞留しやすい
- 霧の日に硫酸ミストとなりやすい
- 二酸化硫黄SO2+水H2O→亜硫酸(弱酸性)→硫酸イオン
- 二酸化硫黄SO2から硫酸へは緩やかな空気酸化か少し速度の速い水の中の酸化で進行
【火山性ガスの拡散】
- 「dense gus」は平坦な地形でも自分の重みで周囲より高圧となり重力流として自走する
- 「dense gus」は斜面上であれば水のように斜面を流れ降りる
- 火山性ガスの温度が低下すると密度が濃くなり拡散が活発になる
- 拡散が活発化すると全体的にはガスの濃度が薄くなる
- 火山性ガスの温度は噴気口付近だけでなく地表面との熱のやりとりによる変化にも注意
- 拡散せずに一時的にガスの固まりとして移動する場合がある
- ガスの固まりは空気より比重が大きいので無風時には地面を這うように移動
- 夜間,早朝,曇天時,積雪時など地面温度が大気温度よりも低い場合下方へ流れる
- 日射等により周囲の地表面温度が高い場合は地形に沿って谷を昇るので谷の奥で滞留
- 移動拡散する過程で通路が狭められたり通路の傾斜や方向が急変する地点で滞留しやすい
- 火口壁の高さなどにより火山性ガスの拡散は一部逆流する場合がある
- 晴の日は上昇気流が発生して空気の入れ替えが活発化
- 霧の日はガスが滞留しやすい
- 夜間から明け方の大気が安定(空気が上下に混ざりにくい)
- 山林等に囲まれ風が吹きにくいと危険
- 滞留しやすい地形:盆地状→V字谷やU字谷→一方向のみ斜面→開けた平地または斜面
- 20km/hの風は4km/hの風に比べて60%以上も拡散範囲を小さくする
【吸着剤の考察】
- 二酸化硫黄SO2は水に溶けると酸性を示すので弱アルカリ性の水で吸収させると効果的
- 液体への気体の溶解速度は結構遅いので濡れタオルよりも吸着剤の方が効き目があり
- 活性炭やゼオライトやシリカゲルといった吸着剤が使われていれば効果あり
- 活性炭は無機ガスだけではなくて有機ガスの吸着除去にも有効
- 活性炭入りマスクを数枚重ねて使用するのも効果あり(過信は禁物)
- 炭やコーヒーかすを乾燥させたものも効果あり(過信は禁物)
- 活性炭より塩基性酸化物の多孔体(非常に多くの孔があいている物質)の方が効果的
- 二酸化硫黄SO2のような酸性ガスに対しては塩基性(アルカリ性)のものの方が効果的
- 炭酸カルシウムの多孔体はより効果が高いがやや入手困難
- 登山用の酸素吸入ボンベは緊急時に役に立つ(過信は禁物)
- 防毒マスクには活性炭に加え炭酸カルシウムのような中和剤が添加されている
- 防毒マスクは顔全体を覆うようになっているが人によっては隙間ができる
- 吸収缶は防毒マスクを使用するごとに装着する消耗品で約1時間有効
- 吸収缶は硫化水素H2S用と二酸化硫黄SO2(亜硫酸ガス)用で種類が異なる
【火山性ガスへの対処方法】
- 他の物質(活性炭など)に吸着させる
- 濃度を薄めるために適度に拡散させる
- 火山性ガスの噴出口は高濃度なので不必要に近付かない
- 火山活動が活発化している時は避ける
- 刺激の確認を怠らない(鼻→咽→眼→皮膚の順にやられる)
- 風のない日は避ける
- ガスの固まりは比重の関係で無風時には地面を這うように移動するので注意
- 上空の風向きにも注意して常に風上から接近する
- 晴の日は上昇気流が発生して空気の入れ替えが活発化する
- 夜間から明け方の大気は安定し空気が上下に混ざりにくいので注意
- 霧の日はガスがミスト状になって滞留しやすいので注意
- 植生を確認する
- 岩石が白く変質しているかを確認する
- 動物の死骸の有無を確認する
- 二酸化硫黄SO2の方が硫化水素H2Sより密度が濃いので活発に拡散することに注意
- 火山性ガスの温度が低下すると密度が濃くなり拡散が活発になることに注意
- 早朝,曇天時など地面温度が大気温度よりも低い場合下方へ流れることに注意
- 晴天時の日中など地面温度が大気温度よりも高い場合は地形に沿って谷を昇ることに注意
- 山林等に囲まれ風が吹きにくいと危険
- 盆地状やV字谷,U字谷はガスが滞留しやすい
- 移動拡散する過程で通路が狭められたり通路の傾斜や方向が急変する地点に滞留しやすい
- 火山性ガスの拡散状況について十分に把握する
- 二酸化硫黄SO2は水に溶けやすいので濡れタオルが有効(過信は禁物)
- 硫化水素H2Sは水に溶けにくいので活性炭等の吸着剤が有効(過信は禁物)
- 緊急用には登山用の酸素吸入ボンベも有効(過信は禁物)
- 決して無理をせず異常を感じたらその場を離れる(開けた高い場所を目指す)
※参考
「ある火山学者のひとりごと(ガス)」Cauliさん
「火山ガス災害に関する緊急研究」科学技術庁研究開発局
「三宅島の火山ガスについての化学的ひとりごと」東北大学村松さん
「火山ガスの種類と災害」産業技術総合研究所地質調査所川辺さん
「火山を安全に楽しむために」群馬大学早川さん
「ガステック」※Q&A